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辻村 深月 (著) の「傲慢と善良」の感想

辻村深月の小説「傲慢と善良」は、タイトルをアルベール・カミュの小説から借用していますが、ストーリーは全く異なります。この小説は、傲慢で自己中心的な女性が、ある事件をきっかけに自分自身を見つめ直す過程を描いた物語です。

物語は、主人公である都立高校の英語教師・西宮ゆかりが、生徒たちを傷つけるような言動を取っているという噂が広がり、彼女の人生が一変するところから始まります。ゆかりは、自分自身が正しいと信じていることを貫こうとし、誰にも負けたくないという傲慢さを持っていました。しかし、噂によって彼女自身が傷つけられ、自分の行動について真剣に向き合わざるを得なくなります。

物語の展開は、ゆかりが自分自身を見つめ直す過程を描いた青春小説と言えます。彼女は、自分自身が本当に信じることや、他人に対する思いやりを再考し、自分自身の価値観を見つめ直します。また、彼女が生徒たちと向き合い、彼らの本当の思いを理解することで、人間関係の大切さを再認識します。このような変化は、自分自身の価値観を見つめ直し、成長することの大切さを示しています。

一方で、本作は現代社会が抱える問題をテーマとしても扱っています。例えば、ゆかりが抱える問題である「傲慢さ」というものは、現代社会で多く見られる問題の一つです。また、生徒たちが抱える問題である「いじめ」というものは、現代社会でも根深い問題となっています。この小説は、これらの問題を描きながら、人々が自分自身を見つめ直し、変化することの大切さを訴えています。

また、本作はストーリー展開だけでなく、文章表現にも優れています。辻村深月は、日常的なシーンや感情の描写を丁寧に描き、読者が主人公の感情を共感しやすくしています。

また、本作では、複数の登場人物の視点を交えながら物語が進んでいきます。それぞれの登場人物が抱える問題や感情が、繊細に描かれています。このような手法によって、物語の深みが増し、読者は登場人物たちの心情に共感することができます。

さらに、本作では、小説の中で英語教師としてのゆかりが英語の授業を行う様子が描かれています。その中で、日本人が英語を学ぶ上での困難や、英語という言語が持つ表現力についても触れられています。このような描写は、英語教育に興味を持つ読者にとっては特に興味深いものとなっています。

「傲慢と善良」は、辻村深月の作品の中でも特に力強く、深みのある物語となっています。現代社会が抱える問題に触れながら、人間の成長や変化の大切さを描いています。また、丁寧な文章表現や、複数の登場人物の視点を交える手法など、文学的な技法にも優れています。この小説は、誰もが共感できる普遍的なテーマを扱っており、多くの読者に愛される作品となっています。