SHIMIZU_NORIAKI

基本的にメモ代わり

妄想の記録3

俺の娘が、俺の嫁になった話

俺には、嫁がいない。
正確に言えば、嫁はいたのだが、病気で先立ってしまった。
ただ、俺には10歳の娘がいる。
娘は本当にヤンチャで、しょっちゅうケンカして帰って来る。
もう良い年だっていうのに、小学校低学年みたいな理由でケンカして帰って来る。

そう言えば、娘が最近料理をやり始めた。
普段から料理は全部嫁さんに任せていたからてんでダメで、俺の下手くそな料理が気にいらないんだと。
口の減らないガキだな。
まぁ、めんどかったから良かったけど。
そのせいか、最近いつもやたら早く帰って来る。
友達いないんか、こいつは。
しかも、いちいち「一緒にご飯食べよ!」「一緒に寝よ!」とか。
そんな娘が25歳になった。
何?結婚するんだと。
まぁ当然俺も呼ばれるわな。
バージンロード、一緒に歩いて欲しいとか、そんなんしんどいわ。
まぁ、でもこれでようやく娘が離れてくれる。
この15年間。
料理は私が作るとか言い出してから早15年経つわけだ。
いつもいつも俺に料理なんか作って、一緒に食べて、一緒の部屋なんかに寝て、正直鬱陶しいと思う連続だったわ。
まぁ退屈はしなかったが、せいせいするわ。
華やかに彩られた式場。
煌びやかな衣装を身にまとった娘。
父へ贈る言葉
「母さんへ」
って、母さんにかい。
「約束は守ったよ」
はい?
「母さんがいなくなってから、母さんの代わりに毎日ご飯作ったり、一緒に寝たり。
そうそう、父さんは面倒くさがり屋さんだから、ムッとしてても気にしなくてもいいって言ってたの、本当だったね。
最初は不安だったけど、ある時、ふと不意に覗いて見たらにやけているのを見ました」
「父さんね。口では、めんどくさい、しんどい、って言っていても、なんだかんだ付き合ってくれるし。ちゃんと私のこと見ていてくれるし。
口は悪いけど、欲しい時に欲しい言葉、ちゃんとくれたよ。
私のご飯、最初は全然おいしくなかったのに、食べる度に美味い、美味いって沢山言ってくれた。
あの初めて作った肉ジャガとかひどかったのにね。
母さんが父さんに惚れた理由が解りました」
「私も父さんが大好きです。
だからかな。
母さんが最後に私にお願いした、私が結婚に行くまでは父さんのお嫁さんになってあげてってこと、守って行けました。
父さんは寂しがり屋だから、一緒にいてあげないとダメダメだからって。
まぁ、大人みたいにキスするとか、恥ずかしくて出来なかったけど、それ以外の嫁っぽいことは沢山してあげれたよ。
だから、うん、いつも一緒にいたから、寂しくなさそうだったよ」
あぁ、退屈はしなかったな。
「そういえば隠してたけど、たまに、父さんの事、片親だーってバカにしている人もいたけど、その度、ケンカしました。
ボコボコにして言ってやりましたよ、私が嫁だからいーのって」
だからよくボロボロになって帰って来てたんか
「何か、周りから変な目で見られたり、バカにされ続けたけど、全然辛くなかった。何せ、私の父さんは、自慢の旦那だったからね」
旦那言うな。
「でも、でもね。もう、一緒にいてあげられないよ。もう一人、大好きな人ができました」……。
「私はこの人と一緒に生きます。だから、母さんとの約束はここまでだね。
本当は離れたくない、離れたくないよ。
ずっと一緒にいたいよ。
でもね、ごめんね。ごめん…ごめっ…」
バカやろう。
「父さん、私、お嫁に行っちゃうよ!
行っちゃうからね!約束守ったからね!!」
ああ。
「だから、私がいなくてもちゃんと料理作るんだよ!コンビニの惣菜ばっかじゃダメだからね!」
えー、めんどくさいな。
「私がいないからって、暑い時にクーラーをガンガンにかけて寝ちゃダメだよ!風邪ひいちゃうからね!」
それはしんどいな。
「あとね、あとね…。
あれ、なんでだろ。
涙が止まらないや。
止まらないよっ…。
父さんっ…」
あの、バカやろう…!
俺は嫁に駆け寄って、全力で抱き締めてやった。
旦那が驚いて見てやがる。
今日だけは許せ。
「あのなぁ、これから人様の嫁になるって言うのに、こんなことでなに泣いてやがるんだよ。母さんがいなくなった時だって、泣いてなかったくせに。
前だけ見やがれ。
旦那が心配するだろ。
お前には輝かしい未来があるんだ。
俺なんかと一緒にいるよりも輝かしい未来が。
誇りに思えよ、こんな物臭野郎の嫁を15年もやってたんだ。
誰とだって上手くいく。
幸せになれる。
お前にはその権利があるんだ。
だから、早く幸せになっちまえ」
でも、父さんが一人に…。
「バカやろうが。
俺は一人だって生きて行ける。
中年おっさんを舐めるなよ。
ほら、旦那が見てるだろ。
早く泣きやめ」
周りの連中が沈黙で俺たちを見守っている。
ただ、言わなきゃならないことができた。
旦那の前に立つ。